何もできない生きにくさ
ある寒く雪の降る日のこと。
僕は、かなり遅めの昼食を買いに行くために、コンビニに出かけた。マンションの階段を降りると、一人の女の子がその子の家であろうドアの前で立っていた。
コンビニに行く時は、あまり気にしていなかった。コンビニで、昼食を調達し帰宅しようとすると、女の子がまだドアの前に立っていた。
僕は、声をかけた。
「どうしたの?」
女の子は少し疲れた声で返した。
「家の鍵を忘れて…」
どうやら、女の子は鍵を忘れて家に入れないらしい。状況が分かった僕はこう言葉を返す。
「大家さんに電話してあげようか?」
女の子は言う。
「次、鍵を忘れたら待ってなさいとお母さんに言われたんです」
なるほど。女の子は以前にも鍵を忘れたことがあるようで、その時にお母さんに怒られたのだろう。ここで、僕に大家さんに電話してドアを開けてもらっても、また怒られるかもしれないと感じたのだ。
僕は、そんなこと黙っておけばいいと言いかけてやめた。お母さんなりに何か意図があるのだろうと思ったからだ。
しかし、外は寒い。僕は、何かできることがないかと考えたが思い浮かばなかった。さすがに、女の子を僕の家に入れるわけにもいかないし。
その後、少し会話をした後、
「寒いけどがんばって」と言って帰宅した。
今思えば、何を頑張るのかと思うが。
帰宅してしばらくすると、僕の家のチャイムが鳴った。ドアを開けると、女の子が立っていた。
「トイレ借りていいですか?」
僕は、「いいよ」と言ってトイレを貸したが、さっき何でトイレのことを聞いてあげられなかったのだろうと、後悔の念を覚えた。そんなことにも気づけなかった。
女の子は、トイレが済むと僕の家を出ていった。
そして、さらにしばらくして、外出する予定があったので、部屋を出て階段を降りると、まだ女の子がドアの前にいた。かれこれ、2時間以上はそうしているだろう。
僕は、「寒いけどがんばってね」と心無いことを言った。
女の子は一言、「はい」と言った。
女の子の表情は、とても不安そうで疲れているようだったが僕にできることもなく、その場を後にした。
*
僕が女の子と同じ年の時に、女の子と同じ状況だったらどうしていただろう。
なかなか想像しにくい。
僕の家には、いつも誰かいた。そして、近所には知り合いの家があったからそこに行けばいい。仮に、一人で家に入れずに立っていても誰かが手を差し伸べてくれるだろう。
でも、女の子はもし僕がいなかったら、ただ待つしかなかった。
何か生きにくい世の中になったなあと感じた。
*
そして僕は、とうするべきだったのだろうか。
大家さんに電話するべきだったのか。
女の子と一緒に待ってあげるべきだったのか。
何か温かいものでも差し入れるべきだったのか。
恐らく、大家さんに電話して、「お母さんには内緒にしておけばいいよ」と言うのが良かったのだろう。
でも、それができなかった。
女の子の家庭の問題もある。僕が電話して来ること自体を不審に思われるかもしれない。いろいろと考えが巡ってしまった。
生きにくい世の中だ。